潰瘍性大腸炎と過敏性腸症候群の違いとは?taVNSが拓く新たな可能性
- yamanehari777
- 6月24日
- 読了時間: 6分

潰瘍性大腸炎と過敏性腸症候群は、どちらも腹痛や下痢などの消化器症状を伴う病気ですが、その本質には大きな違いがあります。最も重要な違いは、腸に炎症や構造的な異常があるかどうかです。
それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis: UC)
病態: 大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍ができる病気です。自己免疫の異常が関与していると考えられていますが、明確な原因は不明で、**特定疾患(指定難病)**に指定されています。
症状:
血便、粘血便: 便に血液や膿、粘液が混じることが特徴的です。
下痢、腹痛
発熱、倦怠感、体重減少、貧血などの全身症状
関節炎、皮膚病変、眼の炎症など、腸管外の合併症を伴うこともあります。
診断:
大腸内視鏡検査: 腸の粘膜に炎症、びらん、潰瘍などの特徴的な所見が認められます。病変は直腸から連続的に、口側(上行性)に広がることが多いです。
生検(組織検査): 内視鏡で採取した組織を顕微鏡で調べ、炎症細胞の浸潤など潰瘍性大腸炎に特徴的な病理所見を確認します。
便培養検査などで、感染症による腸炎を除外します。
治療: 腸の炎症を抑えることが主な目的です。
薬物療法(5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤など)
重症例や難治例では、外科手術が必要になることもあります。
完治は難しく、再燃と寛解を繰り返す慢性疾患です。
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome: IBS)
病態: 腸には明らかな炎症や構造的な異常がないにもかかわらず、腹痛やお腹の不快感を伴う下痢や便秘が慢性的に続く機能性疾患です。脳と腸の連携(脳腸相関)の異常やストレス、腸内細菌のバランスなどが関係していると考えられています。
症状:
腹痛: 排便に伴って痛みが和らぐことが多いのが特徴です。
便通異常: 下痢型、便秘型、下痢と便秘を繰り返す混合型などがあります。血便や粘血便は通常見られません。
腹部膨満感、ガス、吐き気
ストレスや不安によって症状が悪化しやすい傾向があります。
診断:
Rome IV診断基準: 特定の症状の組み合わせと持続期間に基づいて診断されます。
器質的疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸がんなど)を除外するために、大腸内視鏡検査や血液検査、便検査などが行われます。これらの検査では、異常所見が見られないことが特徴です。
治療: 症状の緩和とQOL(生活の質)の改善が目的です。
食事療法(低FODMAP食など)
生活習慣の改善(ストレス管理、十分な睡眠、適度な運動など)
薬物療法(整腸剤、下痢止め、便秘薬、腸管運動機能調整薬、抗うつ薬、抗不安薬など)
心理療法(カウンセリングなど)が有効な場合もあります。
命に関わる病気ではありませんが、QOLに大きく影響します。
まとめ
特徴 | 潰瘍性大腸炎 (UC) | 過敏性腸症候群 (IBS) |
腸の病変 | 大腸の粘膜に炎症、びらん、潰瘍がある | 腸に炎症や器質的な病変はない |
便の状態 | 血便、粘血便が特徴的 | 血便、粘血便はない |
発熱・体重減少 | 伴うことがある | 基本的に伴わない |
診断 | 大腸内視鏡検査で炎症や潰瘍を確認、生検で確定診断 | 他の病気の除外と症状のパターンで診断(検査で異常なし) |
国の指定難病 | はい | いいえ |
治療 | 炎症を抑える薬物療法、重症例では手術 | 生活習慣改善、食生活改善、対症療法としての薬物療法 |
両者は症状が似ているため自己判断は危険です。腹痛や便通異常が続く場合は、消化器内科を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
潰瘍性大腸炎に対するtaVNSの効果については、まだ研究段階であり、確立された治療法として広く認知されているわけではありません。しかし、炎症性腸疾患(IBD)における迷走神経の役割に着目し、その治療応用について多くの研究が進められています。
潰瘍性大腸炎と迷走神経・taVNSの関連性
潰瘍性大腸炎は、大腸の慢性的な炎症によって引き起こされる自己免疫疾患と考えられています。迷走神経は、自律神経系の一部として、消化器系の機能調節だけでなく、炎症反応の制御にも深く関わっていることが知られています。
抗炎症作用: 迷走神経を刺激すると、アセチルコリンという神経伝達物質が放出されます。このアセチルコリンが、脾臓(ひぞう)などの免疫細胞にある特定の受容体(α7ニコチン性アセチルコリン受容体)と結合することで、TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの放出を抑制し、炎症を抑える作用があることが動物実験などで示されています。これを「コリン作動性抗炎症経路」と呼びます。
脳腸相関の調節: 腸と脳は密接に連携しており、「脳腸相関」として知られています。迷走神経はこの脳腸相関の重要な経路の一つであり、迷走神経を介して腸の免疫機能が調節される仕組みも明らかになっています。炎症性腸疾患では、この脳腸相関の異常も関与していると考えられており、taVNSによる迷走神経刺激が、この経路を介して腸の炎症を抑制する可能性が示唆されています。
潰瘍性大腸炎におけるtaVNSの潜在的な効果
これらの作用機序から、taVNSが潰瘍性大腸炎の症状改善に貢献する可能性が考えられています。具体的な効果としては、以下のような点が期待されます。
炎症の抑制: 腸管の炎症反応を直接的または間接的に抑制し、潰瘍やびらんの改善に繋がる可能性があります。
症状の緩和: 腹痛、下痢、血便などの主要な消化器症状の軽減に寄与する可能性があります。特に、消化器症状に伴う内臓痛の抑制傾向が動物モデルで示唆されています。
全身症状の改善: 炎症が全身に及ぼす影響(発熱、倦怠感など)の軽減にも繋がる可能性があります。
薬剤治療の補助: 既存の薬剤治療と併用することで、治療効果を高めたり、使用する薬剤の量を減らせる可能性も検討されています。
研究の現状と課題
現在、潰瘍性大腸炎に対するtaVNSの臨床研究は限られており、主に小規模な研究や動物実験が中心です。効果が期待される一方で、以下の課題があります。
大規模な臨床試験の不足: 有効性と安全性を確立するためには、大規模で厳密な臨床試験が必要です。
至適な刺激条件の確立: 刺激の頻度、強度、持続時間など、最も効果的な刺激条件を特定する必要があります。
長期的な効果と安全性: 長期間にわたるtaVNSの効果や副作用についても、さらなる検証が必要です。
現状では、潰瘍性大腸炎に対するtaVNSは、標準的な治療法として推奨されるものではありません。しかし、その非侵襲性と潜在的な抗炎症作用から、今後の研究の進展が期待される分野です。
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